++ What cats feel   3 ++






 
  しさの後には空虚が残った。開いた本に集中できないまま、ぼんやりとしたロイの前を時間が通り過ぎてゆく。頭の中も胸の中も空っぽな気分。br>  母親を失っても涙一つ流すことができず、それどころか母の友人の来訪にこころを躍らせた、これは罰なのかもしれない。
 野辺の花は色彩を失い、歌を口ずさんでも気持ちは沈んだままだった。蒼穹の下、ただひとり詩を暗誦しても、ますます虚しくなるばかりで。
 ──エリシアがいないと。
 肩の上で波立つ豊かな金髪、星のようにきらめくエメラルドグリーンの瞳。ロイを照らす光のすべてを、彼女はセントラルシティに持ち去ってしまったようだ。
 やさしいエリシア。きれいなエリシア。お菓子作りとピアノの上手な、母さんの友達。母さんの──。
「僕の友だちじゃないもの、エリシア……」
 母親が死んでから初めて、ロイの瞳から涙がこぼれ落ちた。一粒が草むらの中へ落ちてゆくと、あとはもうとめどもなかった。

 家に帰ると、元気のないロイにハンナがチェリー入りのパウンドケーキを切り分けてくれた。焼かれてから二週間が経つ、まさに食べごろのケーキはエリシアの置きみやげだ。格子状に掛けられたアイシングが凍てついた雪を思わせた。季節はずれの、甘い雪。
 いまは要らない、と言いかけた瞬間に気が変わり、やっぱり食べることにした。お腹はちっとも空いていなかったのだけれど、エリシアが自分のために残していってくれた菓子を、食べずに駄目にしてしまうのはいかにももったいないからだ。
 どっしりと重いケーキを、ミルクたっぷりの紅茶で胃の底へと流し込む。おいしいから食べるというよりは、義務として機械的に食べているといった感じがした。ここにエリシアがいたらきっと素晴らしくおいしかっただろうケーキも、いまはどこか味気なく、いたずらに喉へ張りついた。

 ロイはエリシアに手紙を書くことを考えついたが、もしも返信がなかったらどうしよう、と思うと恐ろしくて出すことができなかった。綴るだけ綴って封筒に収めた、宛先も差出人もない手紙がひきだしの奥に溜まっていく。
 家のこと、学校でのできごと、いま読んでいる本のこと──少年のささやかな生活について長々と書いた文面は、賢いロイが書いたにしては、どうにも要領を得ないものだった。最後にほんの少しだけエリシアに宛てて、また遊びに来て欲しい、とか、今度はいつ来てくれるの、といったほほえましい文章が付け加えられている。几帳面な文字の並ぶ便箋は、角を合わせて慎重に折られ、皺一つない封筒に入れられていた。
 送られることのない手紙の内容は、少年の筆力の成長によって徐々に大人びたものへと変わり、立派な恋文の様相を帯びてきた。
 だが、彼には思いも寄らなかった。ロイと同じことを考え、そして、実際に手紙を投函している男性の存在に。












                                                                                                                        
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